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さそり座デルタ星観測ガイド

2001.夏版

deltasco.jpg (23232 バイト)さそり座は、心臓に輝く有名なアンタレスを中心に大きなS字カーブを描き、頭(さそりのはさみ)の部分には3つの明るい星が並ぶ、みつけやすい星座です。昨年から、このさそり座に異変が起こっています。

 さそり座デルタ星の位置
 さそり座の頭部には、上からベータ星・デルタ星・パイ星の3つの星が並びます。その真ん中に輝く星が、デルタ星・ジュバです。
 この星が、2000年6月下旬から明るさを増しているのです。本来の明るさは2.3等、肉眼でも容易にわかる星で、明るさを変えない(はずの)星でした。
 ところが、2000年7月下旬には、普段より0.5等明るい1.8等まで明るさを変え、小刻みに明るさを変えながら、2001年の夏もそんな異常な状況が続いています。
 この現象がいつまで続くかわかりませんが、さそり座は10月はじめまで宵の西空に見えています。この機会に、是非明るさの変化を継続して追いかけてみてはいかがでしょうか。小中学生の皆さんにとっては、夏休みの自由研究の格好のテーマですね。

 

 

(図の説明)
星のすぐそばにある数字は、星の明るさ(等級)です。ただし、小数点ははぶいてあります。
たとえば、ベガの00は0.0等、アルタイルの09は0.9等を意味しています。
なお、すぐ近くにあるアンタレス(1.0等)は赤い星なので、青い光を放つデルタ星と簡単に明るさを比べることは無理なので数字はふりませんでした。

<より正確な観測のための図はこちら

 

さそり座デルタ星を観測しよう

 この場合の観測とは、“いつ、どのくらいの明るさか”を測って記録に残すことです。時間は「分」まで、明るさの尺度は「等級」を使います。

(1)他の星と比べて明るさを調べる

 基本は、明るさのわかっている星と比べることによって、明るさを変える星(さそり座デルタ星)の明るさを目で測るという方法です。
 ほとんど同じ明るさの星があれば、さそり座デルタ星の明るさはその星と同じ明るさとします。
 しかし、さそり座ガンマ星は明るい星なので、近くにほとんど同じ明るさの星はめったにありません。
 そこで、「あの星とあの星の中間ぐらいだから、2等星くらいかな?」「あの星とこの星の間の明るさだけど、この星の方に近いからう〜ん、まあ1.5等と2等の間。1.7等星ぐらいかな!?」というふうに明るさを見積もります。
 しかし、この方法はおおざっぱな方法です。より正確に観測したいという方は、次の
(2)からの方法を使ってください。


(2)より、正確な方法 ---「比例法」


次のように、明るさを比べる星(比較星・ひかくせい)をさがし、比較します。

 @さそり座デルタ星より少し明るい星仮にaとします)と少しくらい星)をさがします。
 Aaの明るさに、さそり座デルタ星の明るさががそれぞれどれだけ近いかを見くらべます
 Baの明るさを(頭のなかで)10段階し、さそり座デルタ星は“aにいくつからいくつ”と考え、つぎのようにメモします。

  明るさがaのほうに近ければ、その程度によって、   a (1) v (9) b ・・・かなり(a)にちかい 
                                 a (2) v (8) b
                                 a (3) v (7) b
                                 a (4) v (6) b ・・・ほとんど同じだが(a)にちかい
  もし、さそり座デルタ星が、aとbのちょうど中間ならば、a (5) v (5) b 

  
明るさがbのほうに近ければ、その程度によって、   a (6) v (4) b ・・・かなり(b)にちかい
                                 a (7) v (3) b
                                 a (8) v (2) b
                                 a (9) v (1) b ・・・かなり(b)にちかい

  もし、さそり座デルタ星が、a、またはbとまったく同じならば、v=a、v=bなどとメモします。 

 Cたとえば、a
星が1.6等、星は2.2等aにわりと近くてよりかなり暗く、“Aに2でから8”と考えたとします。
  観測した時刻とともに次のようにメモします。
     2000年*月*日 *時*分*秒
       a  (2) V  (8)  b     
       *(Vは明るさを変える星・Variableの意味です)
       *もちろん、aとbの星が、何座の何という星かということもメモしておきます

 Dあとは計算です。
    ・明るさは、その星の等級から小数点をなくした2桁の数字とします。たとえば2.4等は“24”として書きます。

                                      (bの明るさ−aの明るさ)
 
     さそり座デルタ星の明るさ = (a)の明るさ + ------------------------

                                             10

    <説明>

   ・aとbの明るさの差を<C>とすると   C = 22-16 =6
   ・aとbの明るさの差の1段階がどのくらいかは、Cを10で割ればいいから、6÷10で0.6(0.6等ではなく、実際は0.06等)。
   ・aから2段階暗いということは、aより (C÷10)×2 = 0.6×2 =1.2数字が大きいということ。
   ・aの明るさは16としているので、16+0.6=16.6

   ・小数点をつけなおして、1.66等。
   ・誤差を考えて、観測地は1.7等とする。

以上の観測法を、変光星観測では「比例法」と呼んでおり、初心者の方にもおすすめです。

 

(2)比較星選びの注意点〜より正確な観測とするために〜

次のいくつかを頭に入れると、さらに正確な観測となります。

@赤い星は、青い星と比べて人間の目に感じる明るさが違うので選ばない。さそり座ガンマ星は青い星なので、できれば青い星を選ぶ。
A地平線からの高さ(地平高度)ができるだけ同じ星を選ぶ。地平高度が低くなると、地球の大気の吸収で、本来の明るさより暗くなってしまうからです。
B可能であれば、複数の比較星を選んで何回か観測し平均する。

(3)観測報告の書き方

たとえば、次のように書きます。

例1)さそり座デルタ星
    2000年7月23日 21時13分30秒(JST)
    1.7等(肉眼による目測)
    観測者 遊佐徹 (観測場所・連絡先・住所)

    例2)さそり座デルタ星
            2000 July 23.509(UT)
            mag=1.7
            Obs. Toru Yusa

  

参考:世界時(UT)について

せっかくの貴重な観測。そのとき、その星を見ているのは、全世界であなた一人かもしれません。
変光星の観測報告は、@変光星の名前、A観測時刻とB観測した光度、C観測者名の4点です。

 ただし、変光星は外国の観測者にとっても貴重な資料になりますので、世界共通の時刻で報告する約束になっています。世界共通の時刻とは、グリニッジ天文台(経度0°)を基準とした「世界時(Universal Time =UT)」で、次のように求めます。

         {日本時間の“時(30時間制)”−9}+分
  世界時=------------------------------------
                1440

 

例)1999年9月18日21時13分(日本時)をUTに変換する

@観測時刻の21時から、グリニッジとの時差(9時間)を引く
       21−9=12

A12に60(1時間あたりの分数)をかける。
       12
×60=720

B720に、観測時刻の分数(13)をたす。
       720+13=733

C上記の分数(732)を1日の分数(1440)で割る。
       732
÷1440=0.509027
...

  *以上の計算は電卓で、219 ×60 + 13 ÷1440 で求まる

D時刻の精度を考え、小数点を丸める(1分=0.0007日)
       0.509027 → 0.509
  *小数点5桁以下は無意味ですので。通常3桁で十分。

E日付に、Dの値を足す。

観測時刻: 1999. Sept.18.509(UT)