さる6月4日月曜日。昼間から快晴に恵まれた宮城県・山形県内で、マイナス4〜6等の明るい「星」が、1時間以上目撃されました。当初、静止衛星の「フレア現象」と思われていましたが、山形県上空〜秋田沖日本海上を浮遊する「気球」の可能性が高まってきました。
また、これと関連するか不明ですが、同日白昼、西の空高いところにも明るい星のような光点が、宮城県北部〜岩手県一関市で目撃されています。
引き続き、皆様からの目撃情報をお待ちしています。 |
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2001年6月4日19時11分
35mmカメラに70mmレンズ(F3.5)
ISO800、露出1/60、絞りは開放
パレットおおさき駐車場にて、松浦撮影 |
●この日の古川市での日没は18時58分でした。その直前、18時45分、パレットおおさきの松浦が金星ほどの明るさの「この星」の存在を確認。同じく古川市内に滞在していた川崎市の小池直樹氏もマイナス6等で白色に輝く「この星」を観測しています。松浦はこの星を広角〜準望遠、コリメート撮影によって、「この星」を記録しました(上写真)。また、パレットおおさきの遊佐も松浦から連絡を受けて、19時15分以降眼視で確認するととにも「この星」をデジタルカメラで写真に記録しました。
その後、この夕方の輝星の目撃情報は、仙台市郡山小学校の山田教頭先生ら4名の先生方、仙台市高森中学校の市川先生、丸森の仙台天文同好会員でアマチュア天文家の大槻功さん、山形県天童市のアマチュア天文家佐藤さん、センター職員の佐々木ら、計11名から寄せられています。
●当初、水星または木星が、透明度のよい空で明るく見えていたものと思いこんでいましたが、水星がこれほど明るく見えることはなく、また水星・木星とも位置が違います。また、古川市以外にも、仙台市太白区・泉区、角田市、山形県でも目撃され、かつ長時間見え続けていることから、飛行機やヘリコプターなどではありません。
●「夕刻の輝星」については、各地点での測定の結果、方位・地平高度がほとんど変わらず、通常の天体に見られる時間による位置の変化(日周運動)が認めらませんでした(天童での観測では、50分間で5°高度が下がっていることが観測されています。)。また、各地からの見える位置が違いますので、遠く離れた「天体」でもないことは明らかです。
●遠田郡小牛田町での遊佐の観測では、19時25分過ぎには、薄雲に入ったと思うほど急に暗くなり(これは人工衛星の特徴)、肉眼では見つけられなくなりました。また、同様の光度変化を、角田市で目撃した大槻氏も認めています。天童の佐藤氏は、車で移動する2分弱の間に見えなくなっていたとしています。
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●肉眼では見えなくなってしまった後も、古川市稲葉での松浦の松浦は4cmの望遠鏡で観察を続け、19時30分ごろまで、点光源ではない丸く、ややかけたような面積状の姿(右写真)を認めています。 また、各地点での目撃情報は以下の通りですが寄せられています。
●観測値
*方位は(北基準・東回り)
*月日は、すべて2001年6月4日
*赤文字は追加情報 |
「この星」の拡大像
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19時30分
4cm(fl400mm)望遠鏡に、オルソ18mmを装着し、コリメート(拡大)撮影。
眼視では、火星より小さいくらいぐらいの大きさ(約10秒角)。眼視では、太陽と反対側がややかけていた。
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・13時20分〜13時30分位
方位:西から南に38°(偏角補正済)
高度:太陽の高さと同じ位(高度約65°)
星のような光点が白っぽく輝いていた。「幻日」のような面積体ではない。30分間ほどみえたあと、太陽光のせいか見えなくなってしまった。
岩城且佳(いわきかつよし)、岩手県一関市山ノ目駅付近
*(岩城氏のコメントより)気球ではないかと直感。17〜18年前、一関市滝沢でみた、三陸町からの高層観測用の気球ゾンデと同様の光点だった。
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・18時00分〜18時35分頃
方位:西から44°北(偏角補正済)
高度16°(18:03)
18:35〜36分過ぎには見えなくなった
山田和徳教頭・山口薫教諭・駒沢健二教諭・大槻真知教諭
(仙台市郡山小学校)
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・18時30分〜19時00分くらいの間
方位:西から北に28°くらい(偏角補正済)
高度:約8〜10°
仙台市高森中学校教諭 市川 仁
仙台市泉区高森中学校校舎(東経140°20′10″北緯38°21′10″)から観察
金星よりも遙かに明るい光点。30分ほど見ていても、日周運動で動かなかった。
*(市川氏のコメントより)かつて27年ほど前、岩手県北上市で夕方に、南西・高度45°あたりに同様の光点を見つけたことがあり、このときは8cm反射経緯台の天体望遠鏡で65倍ほどで見たところ「!」マークのような気球だと分かりました。場所からいって、三陸町から打ち上げられた気象観測用のものかと思います。今回はそれよりもずっと小さなもののようですね。
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・18時45分〜19時35分まで
方位:西から北に45°(6/26修正・偏角補正済)
高度:15(発見時)→ 10゜(消失時)
明るさ:−4等位
佐藤光則、山形県天童市(140゜22′13″・38゜20′13″)
*方位角は、偏角の補正済 |
・18時45分
方位・高度とも、水星のあたりと直感。
光度は金星クラス
松浦善博、古川市内
・19時00分44秒
方位:西から21.5°北
高度:9.0°
・19時04分
方位:西から21。5°北
高度:8.5°
・19時11分
方位:西から21.5°北
高度8.1°
松浦、古川市稲葉(東経141.1°:北緯38.54°)
*方位角は、偏角の補正済 |
・18時55分
方位:西から20°北
高度:9°、光度−6等
小池直樹、古川市内 |
・19時10分ごろ(±10分)
方位:西から38°北
高度:5°
マイナス2等級
大槻功、角田市内(東経140°47.4′ 北緯37°57.5′°の車中)
*方位角はトランシットを用い、遠方の山とのから測定
・19時12分ごろ(±10分;上の観測から1〜2分後)
方位:西から30°北
高度:8°
大槻功、角田市内(東経140°47.0′ 北緯37°57.6′°の車中)
*方位角はトランシットを用い、遠方の山とのから測定
(大槻氏からのコメント)記憶が怪しく、さらに走行中の車の中からの目撃。走行中に見なれない「恒星状」の光。飛行機かなと思って走行しながら見ていましたが目立った移動は確認できず。人工衛星かなとも思いましたが、それでも移動するはずと思いました。 赤い色をしていたので大気の吸収が影響しているのかな?そうだとすれば!? しかしその直後から急激に減光していき見えなくなってしまいました。なんだ、人工衛星かと思って正確な位置の確認をするには至りませんでした。
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・19時30分
方位:西から19.5°北
高度: 8.3°
光度:マイナス2等(その5分前はマイナス3等)
撮影直後に肉眼で見えなくなる
遊佐徹、小牛田町(東経141.05°北緯38.55°)
*位置は同時刻のぎょしゃ座カペラの高度・方位角との差から |
また、このほかにも3名の方から情報がありましたが、いずれも宵の空南西に輝く火星でした。
<「この星」の正体に関する考察>
(1)人工衛星の可能性は否定
地平に対する位置がほとんど動いていないこと、19時30分ごろ急激に明るさが落ちたことから、当初人工衛星と考えました。地面から約3万6000kmの高いところにある放送衛星や気象衛星などの「静止衛星」や、1万km以上の高い地点をゆっくり運行する人工衛星の場合、このような動きを見せることがあるからです。しかし、8800個以上の人工衛星の位置を計算してみても、一致するものがありませんでした。
人工衛星の計算をなさっている、倉敷科学センターの三島和久氏の調査でも、該当する人工天体はなく、また高軌道の衛星がここまで明るく輝いたという例は聞いたことがない、ということでした。
遠方の人工衛星が、これほど明るくなること、そして50分間という長い間輝き続けるというのは考えられず、したがって、人工衛星の確率は低くなってしまいました。
また、「この星」は、松浦の眼視では、点像でなく円形の惑星状にみえていました。大きさは当日の火星より小さい10秒角ほどです。これが、仮に静止軌道(3万6000km)にあった場合、その実際の大きさの計算値は1.74kmとなってしまいます。低高度の人工衛星として、仮に300kmとしても、大きさは15mほどにもなってしまいます・・・・・・
(2)気象観測用ゾンデの可能性は?
いつのことか、東北地方で宵の空に輝星騒動が起こったことがありました。その正体は、後日、岩手県三陸町で放球された高層の気象観測用の気球<ゾンデ>であることが報道されました。
<この物体の位置・1>
このことを思い出して、次のような視点でこの物体の位置を計算してみました。
・仰角は、9°とする
・この物体は、19時30分に太陽光が届かなくなり消えた。すなわち、この物体から見て、地球の縁に太陽が隠れた。このとき、古川市での太陽高度は、マイナス6.5°である。
したがって、
@古川から仰角9°の線と、
A古川から太陽の見える方向6.5°の地点(西北西に722.3km)から、角度6.5°の線
この2線の接点が、物体の存在する場所である
という仮定で計算してみると、
物体の位置は、
★古川市から西北西約276km
(東経:約138。0° 北緯39.5°;秋田市西沖約180km)
★地表から約46km
ということになります。
なお、その後の検討から、高度角については、時間と共に下がっている可能性が高くなってきました。これにより、19:30時点の古川からの仰角を9.0°から8.0°に変更して計算すると、地表からの高さは約39kmとなります。
また、ちなみに、このときの物体の実直径をあえて計算してみると、13.4mとなります。
この方法は、誤差が考えられます。物体が見えなくなった時点で、物体に太陽光があたらなくなったわけではなく、単に反射光が観測地に届かなくなってしまった可能性も十分にあるからです。
従って、古川以外からの情報が集まってきた段階では、次の方法で位置を求めます。
<この物体の位置・2>
各地からの見えた方向の情報が入りましたので、それらの視線方向を地図上で線を引き、その交点を物体の場所とする、というより正確な方法を講じてみました。しかし、各観測にばらつきがあり、すべての観測地が収束するわけではありません。
@古川市と仙台市郡山からの、視線方向の交差する点:
★古川市から西北西約80km
(東経:約140.1° 北緯38.9°;山形県新庄市と酒田市の中間地点上空)
★地表から約11km〜12km
となります。このとき、物体の実際の直径を推定すると、約4mとなります。
A古川市と角田市からの視線方向の交差点:
★秋田県象潟沖約100km
B古川と天童市からの視線方向の交差点:
★酒田市西北西沖25km
どの観測ポイントの値を採用するかによって、だいぶ違ってきますが、これまでの情報から総合すると
山形県新庄市と酒田市の中間地点上空ないし秋田県象潟沖西約100km
地表から十数km〜30数km
のいずれかの地点にあることになりそうです。すいませんが、これ以上追い込むのは難しい状況です。
<では、本当に「気象観測用ゾンデ」か>
しかし、ゾンデを打ち上げている秋田地方気象台と輪島測候所に電話で問い合わたところ、当日は定時(02:30,08:30,14:30,20:30)に放球しており、該当する物はない、という回答をいただきました。秋田や輪島のゾンデは、通常2時間から2時間半以内には高度30〜35kmに達し、破裂・降下するものなので、その時間には上空にはないはずだということです。しかも、上空の風で、距離的には結構遠くまで流されて、じっとしているものではなく、少なくとも日本で放球したゾンデとは考えられない、ということでした。
(3)その他の気球、民間の気球は?
日本の気象観測ゾンデでなければ、その他の機関の打ち上げた気球ということになりそうですが、気象観測ゾンデ以外に十数kmも上空にあがるもの、というのはあるのでしょうか?
または民間の気球ということになりそうですが、民間の気球で多い熱気球の場合、通常300〜1,000mの高度で飛行することが多く、最高高度の世界記録は15km
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日本記録は12kmだそうです。しかし、熱気球は外気との温度差で浮揚させるため、夏ではなく冬にフライトさせることが一般的で、しかも安全のため夜間の飛行は控えるということです(気球関係のホームページより)。この方面は素人なので何とも言えませんが、民間の気球という可能性もあまりなさそうです。
(3)海外からの気球
当日の東北地方は、おおむね高気圧におおわれていましたが、梅雨前線が日本列島の南岸に東西に伸びていて、低気圧が近畿付近〜日本海にかけて東に進んでいました。気象庁の観測では、上空では、秋田上空に高さ12km付近に50m/sの西風ジェットがあって、ゾンデは東に流されるパターンだった、ということです。
この物体が日本国内で放球されたゾンデであれば、太平洋側に向かって流れていくはずで、逆に日本海側に向かって行くというのは不自然です。ということは、もしこの物体が、ゾンデもしくは気球など、地表からとばされた物体であるとすれば、大陸の方向からとばされてきたということになります。
TBSのお天気キャスター森田正光氏は、6月20日のラジオ番組「日本全国8時です」で、この物体の正体を、北朝鮮からの気球ではないか、と推定しました。番組の中で森田さんは「過去にも朝鮮半島からのPR活動目的のビラをまくためと考えられる気球が多数飛来したことがある」「しかも、それは6月〜7月に多く、ほぼ例外なく干ばつや洪水などの大きな問題が発生している時だ」としています。今年は、過去最悪の干ばつが起こっており、このような気球が放たれた可能性がある、というのです。
過去の、朝鮮半島から飛来した「気球」についての情報は、たとえば
・毎日ニュース(1999/7/29) http://www.mainichi.co.jp/eye/school/news/99/07/j29-3.html や
・産經Web(1997/01/10) http://www.sankei.co.jp/databox/paper/9701/html/0110side01.html
をご参考にして下さい。
(*ただし、今回の輝星の正体が、朝鮮半島から飛来した「気球」であるとは、まだ断定できません。)
(4)白昼の光点
なお、この日の日中、宮城県北部の栗原郡栗駒町と岩手県一関市で、白昼にかがやく星のような光点が目撃されています。当初、上層雲によって起こる太陽光の屈折現象「幻日(げんじつ)」ではないかという地元紙の報道がありましたが、その後の調査で、当日は幻日が起こった事実がないことが判明しました。その結果、「白昼の光点」と「夕刻の輝星」に接点がなることも想像できます。
もし夕方の輝星と同一のものであれば、二通りの飛行コースが考えられます。
@東から西に向くコース。地表から数十kmを、東から西に向かって飛んでいった。
しかし、こんなに高い地点で、偏西風やジェット気流の影響を無視して西行コースをとれるものか?
Aふたつは、大陸方面から偏西風やジェット気流の影響で西から東に流れていった。
しかし、そうであれば、昼間に見えていた時点で、100km〜150kmというかなり高いところを飛行していたことになる!
このあたりの検討は、気象的な検証が必要なところです。
上記のような不自然さが残るので、夕方の輝星と白昼の光点は同一のものとは少々考えずらいものがあります。もしかすると、同じような物体が少なくとも2個飛来したのでしょうか?
「この星」が、気球やゾンデなど地上から放たれた物であるという可能性が高いのですが、その正体については依然として謎のままです。いずれにしても、「天体」ではなかったことだけは、確かなようです。